我孫子市・柏市のはりきゅう専門院

【30代男性・原因不明】右のこめかみ・奥歯・顎関節の痛み──鍼治療5回でたどった経過

" 症例 "

2026年7月4日

【30代男性】右のこめかみ・奥歯・顎関節の痛み──鍼治療5回でたどった経過

この記事のまとめ

この記事は、右上の奥歯からこめかみ、顎へと広がる痛みを抱えた30代の男性が、鍼灸治療によって改善していく経過をまとめた症例レポートです。

 

歯科では虫歯は見つからず、「噛み合わせの問題」と説明され、歯を削る処置を受けたものの、痛みは残ったままでした。発症当初は、食事や睡眠にも支障が出るほどつらい状態だったそうです。

 

この症状に対し、当院では検査の結果、手と首・肩まわりのツボに鍼をする必要ありと判断し、週2回、計5回の鍼施術を行いました。

 

その結果、3回目を終えるころには、こめかみや下顎へ広がっていた痛みが和らぎ、5回目の施術後には、痛みをほとんど意識せずに過ごせるようになるまでに改善が見られました。その様子をこの記事ではお伝えします。

この記事のポイント

顎やこめかみの痛みに対して、どこに目をつけて施術を行うのか。

痛む場所だけに注目するのではなく、痛みのある部位から離れた「手のツボ」を使って、顎の痛みにアプロ

ーチ。

上記について、東洋医学と現代解剖学の両面から、当院の考察を交えて説明します。

著者プロフィール

池内 公(いけうち・いさお)

ゐろは鍼漢院 院長/鍼灸師。千葉県我孫子市で鍼灸による治療を行っています。古典(傷寒論・黄帝内経など)の学びと現代医学の両面から、一人ひとりの体に合わせた治療を心がけています。


「食事のたびに、右の奥がギューンと痛む」──ある30代男性の6日間

その方が来院されたのは、痛みが出始めてから6日目のことでした。

始まりは、特に思い当たるきっかけもなく、ある日ふと感じた右上の奥歯の痛みだったといいます。それが次第にこめかみへと移り、やがて右の顎の関節そのものが痛むようになりました。

白湯で口をゆすごうとすると、頬から顎にかけての筋肉が「ギューン」と引きつるように痛む――ご本人はその感覚を、そう表現されました。

発症した当日は、口を開けることさえ辛く、食事はゼリーで済ませるしかなかったそうです。夜も痛みで目が覚め、ゆっくり眠れない日が続きました。

歯科も受診されましたが、虫歯は見つからず、「噛み合わせが悪く、上下の歯が当たることで痛みが出ている」と説明を受け、歯を少し削る処置をされました。それでも痛みは残ったまま。ロキソニンでしのぎながら過ごすうちに、この6日間で少しずつ口は開くようになり、今は左側で噛んで右をかばう形で、なんとか食事をとっている――そんな状態でした。

それでも、ご本人がいちばん辛いと言われたのは、やはり食事の時間でした。一日に何度も訪れる「食べる」という当たり前の行為が、そのたびに痛みと向き合う時間になってしまう。

この辛さは、経験した人でなければなかなか伝わりにくいものだと思います。

私がこの症状をどう見たか

歯そのものに原因が見当たらないのに、顎やこめかみが痛む。こうしたケースで私がまず注目するのは、歯ではなく、顎を動かすための筋肉や関節のこわばりです

こめかみのあたりには側頭筋、頬の奥には咬筋という、いずれも噛むときに働く大きな筋肉があります。これらが過度に緊張すると、こめかみの痛みや、顎関節そのものの痛みとして現れることがあります。「口をゆすごうとすると筋肉がギューンとなる」という感覚は、まさにこの咀嚼にかかわる筋肉が、動きに対して過敏になっているサインと私は受け止めました。
歯科での「噛み合わせ」という説明も、大切な情報の一つです。ただ、歯を削っても痛みが残ったという事実は、痛みの主役が歯の当たり方そのものよりも、噛み合わせに関わる筋肉や関節のコンディションにあると考えました。

治療の実際──週2回、計5回

施術は週に2回のペースで、合計5回行いました。

痛む顎やこめかみに直接鍼を打つのではなく、中心に据えたのは手にある2つのツボ――合谷(ごうこく)と養老(ようろう)、そして肩の上にある「肩井(けんせい)」というツボでした。

合谷は手の甲、親指と人差し指の骨が合わさるあたりに、養老は手首の外側にあります。肩井は、首の付け根と肩先のちょうど中間あたり、肩こりで多くの方が指で押さえる、僧帽筋のこりやすい場所に取るツボです。

首や肩の緊張は、顎を動かす筋肉ともつながっています。手のツボで顎そのものにアプローチしつつ、肩井で首肩まわりの土台をゆるめる――そうした組み立てで施術を進めました。

痛む場所から離れた手や肩に鍼をする――初めての方には意外に映るかもしれません。ですが、これには理由があります。

なぜ、手のツボが顎に効くのか

ここでは、当院が拠って立つ「東洋医学の考え方」と、「現代解剖学から示唆されること」を、あえて分けてご説明します。

どちらも大切ですが、確かめられていることと、これから研究が進む部分とを、きちんと区別してお伝えしたいからです。

① 経絡(けいらく)の考え方

東洋医学には、体の中を巡る「経絡」という道すじがあると考えます。今回使った手の2つのツボは、いずれも顔へと流れる経絡の上に位置しています。
合谷は「大腸経(だいちょうけい)」、養老は「小腸経(しょうちょうけい)」という道すじにあり、どちらも首や顔へとつながっていきます。

とくに合谷については、古くから「面口(めんこう)は合谷に収む」という言葉があり、顔や口まわりの不調に対して用いられてきました。

手のツボへの刺激が、この道すじを通じて顎へ届く――これが、当院の施術の背景にある考え方です。

② 現代解剖学から示唆されること

いっぽう、現代の解剖学から見ても、興味深い事実があります。脳の表面には、体の各部位の感覚を受け持つ「体性感覚野」という領域があり、そこでは顔の領域と手の領域が隣り合って配置されていることが知られています(ペンフィールドの「ホムンクルス」として有名です)。

ここで正直にお伝えしておきたいのは、「顔と手の領域が脳の中で隣接している」というのは確かめられた解剖学的事実である一方、「だから手のツボが顔に効く」という因果関係までが証明されているわけではない、ということです。この点は現時点では有力な仮説の一つであり、今後の研究にも期待したいと思います。
確かなのは、「痛む場所そのものに触れなくても、体の別の場所を通じて働きかける道がある」という臨床の実感です。その道のりを、古典の言葉と現代の知見の両方から理解しようと努めている――それが今の当院のスタンスです。

経過とお伝えしたいこと

変化は、思っていたよりも早く訪れました。
3回目の施術を終えるころには、右上下の奥歯が当たる違和感こそ残っていたものの、あれほど辛かったこめかみや下顎へと広がる痛みが、和らいでいたのです。

痛みが「顔の広い範囲に広がっていく」感覚は、辛さそのものであると同時に、ご本人にとって大きな不安でもありました。

その広がりが治まったことは、体にとっても気持ちにとっても、大きな転換点だったと思います。
そして5回目の施術を終えるころには、あれだけ一日を左右していた痛みを、ほとんど気にすることなく過ごせるくらいになっていました。
食事のたびに身構えていた時間が、いつのまにか普通の食事に戻っていた――ご本人が「そういえば痛くない」と気づく、その静かな変化こそ、私がいちばん嬉しく思う瞬間です。

歯を削っても和らがなかった痛みが、歯には触れずに落ち着いていった。このことは、痛みの原因が「歯そのもの」だけにあったのではなく、それを取り巻く筋肉や関節の緊張の側にも大きく関わっていたことを、経過があとから教えてくれたようにも感じます。
同じように、歯科では原因が見つからないのに顎やこめかみが痛む――そんな辛さを抱えている方に、この記事が届けばと思います。食事や睡眠という、暮らしの土台が痛みに侵されるのは、本当に消耗するものです。

おひとりで抱え込まず、こうしたアプローチもあるということを、知っていただけたら幸いです。
本記事は個別の症例に基づく記録であり、同様の効果を保証するものではありません。症状には個人差があります。

この記事を書いた人

鍼灸専門 ゐろは鍼漢院 院長

2009年「ゐろは鍼漢院」開院 現在臨床暦20年以上。

「一本の鍼には、一人の可能性を広げる力がある」

を信条に日々奮闘中。

2012年より、「日本獣医中医薬学院」の専任講師として

今日まで、100人以上の獣医師の鍼灸教育に関わる。

 

詳しい、プロフィールはこちら

 

 

カテゴリー: 症例.
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