東洋医学をもっとカジュアルに(第2回)「怖くて腰が抜ける」——心と体は、ひとつ
ゾッとするような、怖い思いをしたとき。
腰から、すっと力が抜けたことはありませんか。
こんにちは。はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院、院長の池内です。
前回は、「東洋医学って、実はもう身近にあるんですよ」というお話をしました。
今回はもう一歩ふみこんで、東洋医学のいちばん大事な考え方をご紹介します。
それは——体を、バラバラに分けて考えない、という見方です。
東洋医学では、これを「整体観念(せいたいかんねん)」と呼びます。
むずかしい言葉ですが、中身はシンプル。「いちいち切り離さない」、それだけです。
そして、切り離さないものが、大きく3つあります。
①体の中どうし ②心と体 ③体と自然。
「怖くて腰が抜ける」「悩みが続いて胃が痛い」——だれもが心当たりのあるこの感覚が、その入り口になります。どうぞ気楽に読んでくださいね。
- 東洋医学は、体をバラバラに切り離さず、「ぜんぶつながっている」ととらえます(整体観念)。
- ①体の中どうし(肝と筋、腎と骨…)②心と体 ③体と自然(季節)。をそれぞれ切り離さず、一つとして捉える考え方について解説します。

はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院 院長 池内 公(いけうち いさお)。
臨床歴20年以上。病院勤務で内科・整形外科・耳鼻科などの現場を経験。
2012年からは獣医師向けに東洋医学の講義も担当しています。千葉県我孫子市、手賀沼のほとりで開院。
東洋医学は「分けて考えない」
西洋医学は、体を細かく分けて発展してきました。
内科、整形外科、耳鼻科……というふうに、部位や臓器ごとに深く掘り下げていく。
これはとても大切な考え方で、そのおかげで進んだ医療がたくさんあります。
いっぽう東洋医学は、逆の見方をします。
体を、ひとつのつながったものとして、まるごと見る。これが「整体観念」です。
さきほどの3つ——①体の中どうし、②心と体、③体と自然——を、ひとつずつ、身近な例で見ていきましょう。
① 体は、バラバラのパーツじゃない
東洋医学は、体のはたらきを大きく5つに分けて考えます。
肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)の5つ。これを「五臓(ごぞう)」と呼びます。
ここで大事なのは——この5つは、それぞれ体のいろんな場所と、糸でつながっている、ということ。
たとえば、こんなふうにです。
- 肝は、筋(すじ・腱)や目とつながっています。→ 目が疲れる、まぶたがピクピクする、筋がつる…といった不調は、肝から見たりします。
- 腎は、骨や耳とつながっています。→ 腰や骨の弱り、耳鳴りなどは、腎から見たりします。
- 肺は、皮膚や鼻とつながっています。→ 肌の乾燥、鼻の不調は、肺から見たりします。
この「どの臓が、体のどこ・どんな感情・どの季節・どの味とつながっているか」を、一覧の表にしたものがあります。
それが五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)です。少しだけ、のぞいてみましょう。
| 五臓 | 体の部分 | 感情 | 季節 | 味 |
|---|---|---|---|---|
| 肝(かん) | 筋・目 | 怒り | 春 | 酸っぱい |
| 心(しん) | 血管・舌 | 喜び | 夏 | 苦い |
| 脾(ひ) | 肉・口 | 思い悩み | 梅雨 | 甘い |
| 肺(はい) | 皮膚・鼻 | 悲しみ | 秋 | 辛い |
| 腎(じん) | 骨・耳 | 恐れ | 冬 | 塩からい |
はじめは、覚えなくて大丈夫です。「へえ、こんなふうにつながっているんだ」と眺めるだけで十分。
そして、おもしろいのはここから。5つの臓は、たがいにも関わり合っています。
たとえば、目の不調で来られた方がいたとします。
表を見ると、目とつながりが深いのは「肝」。まずはそこを整えます。
でも、それだけでは良くならないこともあります。
よくよくうかがうと、耳鳴りもある……となれば、「腎」も関わっているのかもしれない。
鼻や呼吸器の不調もある……となれば、「肺」も関わっているのかもしれない。
こんなふうに、こじれている不調ほど、離れた場所どうしがつながっていることが多いのです。
だから東洋医学は、「目だけ」「腰だけ」と切り離さず、体ぜんぶのつながりの中から、糸口をさがしていきます。
②「怖い」と腰が抜ける——心と体はひとつ
2つめは、心と体のつながりです。
さきほどの表に、「感情」の列がありましたね。東洋医学では、感情もまた、五臓と結びついていると考えます。
たとえば「恐れ」。これは「腎」とつながっています。
そして腎は、腰や骨と関係が深い場所。だから、強い恐れを感じると、その影響が腰にあらわれる——。
「怖くて腰が抜ける」というあの感覚を、東洋医学はこんなふうにとらえるんですね。
つぎに「思い悩む」気持ち。これは「脾(ひ)」——消化のはたらきとつながっています。
考えごとが頭のなかをぐるぐる巡って、止まらない。そんな日が続くと、食欲が落ちたり、胃が重くなったりしますよね。
「ストレスで胃が痛い」というのは、まさにこのつながりです。

もうひとつ、「怒り」。これは「肝」とつながり、筋(すじ)のこわばりとしてあらわれます。
イライラすると、肩に力が入って、体がこわばる。歯を食いしばる。——思い当たること、ありませんか。
心と体は、別々のものではなく、ひとつにつながっている。昔の人は、そう見ていました。
③ 春になると、そわそわする——体と自然
3つめは、体と自然(季節)のつながりです。
私たちの体は、その日の天気や季節から、思っている以上に影響を受けています。
たとえば春。なんだか気持ちがそわそわして、落ち着かない。そんな経験はありませんか。
表をもう一度見てみましょう。春は「肝」の季節です。
春は風が強く吹く季節でもあり、東洋医学では、その「風」を受けて「肝」が高ぶりやすいと考えます。
春の花粉症で目がかゆくなるのも、東洋医学では「風」と「肝」のつながりから見たりします(表のとおり、肝は目とも結びついていましたね)。
そして、味覚にもあらわれます。
たとえば、妊娠中に酸っぱいものが無性に欲しくなる方がいます。
表を見ると、酸っぱい味は「肝」の列。酸味は、肝を助ける味なのです。
東洋医学では、妊娠中は、おなかの赤ちゃんを育てるために肝がはたらきづめで、疲れやすいと考えます。
だから、その肝を助けようとして、体が自然と酸っぱいものを欲しがる——そんなふうに見るわけです。
体は、季節とも、食べたいものとも、ちゃんとつながっているんですね。

つながりで見ると、手あてのヒントになる
こうして「体の中も、心も、季節も、ぜんぶつながっている」という目で見ると、見えてくることがあります。
たとえば、腰の痛み。そのつらさが、どんなときに強くなるか——。
怖い思いや不安が続いたあとなのか、考えごとで眠れない時期なのか、季節の変わり目なのか。
そこに糸口があると、東洋医学では考えます。
だから私たちは、つらい場所そのものだけでなく、心の状態やその季節も、そっとうかがいながら手あてを組み立てていきます。
もちろん、すべてがこの表のとおりとはかぎりません。
それでも「体はつながっている」という見方は、日々の臨床でとても助けになってくれる——私たちは、そう感じています。
難しく考えなくて、大丈夫
東洋医学の「分けて考えない」という見方、なんとなく伝わったでしょうか。
体の中どうし。心と体。体と季節。それらはひとつに、ゆるやかにつながっている。
そう思って自分の体をながめると、不調のサインが少し読み取りやすくなるかもしれません。
次回(第3回)は、東洋医学ならではの、ちょっと不思議なお話です。
「同じ病名でも、人によって手あてが変わる」。その秘密である「証(しょう)」という考え方を、やさしくほどいていきます。どうぞ、お楽しみに。
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