我孫子市・柏市のはりきゅう専門院

東洋医学をもっとカジュアルに(第3回)同じ病名でも、人によって手あてが変わる——「証(しょう)」のふしぎ

" 東洋医学をかもっとカジュアルに "

2026年7月25日

たとえば、同じ「頭痛」で来られたAさんとBさん。

東洋医学では、まったくちがう手あてになることがあります。

同じ病名なのに、なぜ——?

こんにちは。はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院、院長の池内です。

前回は、「東洋医学は、体をバラバラに分けて考えない」というお話でした。

今回はその続き。東洋医学ならではの、ちょっと不思議な”見立て”のお話です。

その名も、「証(しょう)」

これがわかると、「東洋医学って、こういうことか」と、ぐっと近づいて見えてきますよ。どうぞ気楽に。

この記事の要約
  • 東洋医学は、「病名」だけで治療を決めません。
  • 見て・聞いて・尋ねて・触れて(四診)、体からのサインを集めます。
  • そのサインから、今のあなたの状態=「証(しょう)」を見立てます。
  • だから、同じ病名でも人によって手あてが変わり違う病名でも同じ手あてになることがあります。
  • 「証」は、2019年にWHO(世界保健機関)の国際的な病気の分類にも加えられました。
この記事を書いた人

ゐろは鍼漢院 院長 池内公

はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院 院長 池内 公(いけうち いさお)。

臨床歴20年以上。病院勤務で内科・整形外科・耳鼻科などの現場を経験。

2012年からは獣医師向けに東洋医学の講義も担当しています。千葉県我孫子市、手賀沼のほとりで開院。

東洋医学は「病名」で治療を決めない

病院に行くと、まず「病名」がつきますよね。

そして、その病名に対して、お薬や治療が決まっていく。

東洋医学は、ここが少しちがいます。

もちろん病名も大切にします。でも、それと同じくらい——ときにはそれ以上に——「今、その人の体がどんな状態か」を大事にします。

同じ「頭痛」でも、ある人は体が冷えて、ある人は熱がこもっている。

ある人は疲れきっていて、ある人は張りつめている。

その”今の状態”に合わせて手あてを変える。それが東洋医学のやり方です。

では、その”今の状態”を、どうやって見きわめるのでしょう。

体からのサインを、4つの方法で集める(四診)

東洋医学には、体からのサインを集める4つの方法があります。まとめて四診(ししん)と呼びます。

  • 望診(ぼうしん)=見る:顔色、舌の色、姿勢や動き…目で見える情報を集めます。
  • 聞診(ぶんしん)=聞く・かぐ:声の調子や呼吸の音、においなど。
  • 問診(もんしん)=尋ねる:いつから、どんなときにつらいか。眠りや食欲、気持ちのことも。
  • 切診(せっしん)=触れる:手首の脈をみたり、おなかやツボにそっと触れたり。

とくに東洋医学らしいのが、です。

手首の脈は、指で触れると、速い・遅い、強い・弱い、太い・細い…と、いろんな表情があります。

舌も、色や形、コケの様子に、体の状態があらわれます。

たとえば、健康なときの舌はきれいなピンク色。

赤みが強ければ熱を、白っぽく色が薄ければ冷えや”足りなさ”を…というふうに読んでいきます。

手首の脈をみる施術者と、舌を見る舌診のイメージ

集めたサインから「証(しょう)」を見立てる

こうして四診で集めたサインを、ひとつにまとめて見立てたもの。それが「証(しょう)」です。

いわば、「今のあなたの体の状態の”見立て名”」のようなもの。

そして東洋医学では、この証が決まると、手あての方針も決まります。

「病名 → 治療」ではなく、「サインを集める → 証を見立てる → 手あてが決まる」。

この流れが、東洋医学の背骨になっています。

「血が足りない」=血虚(けっきょ)を例に

ひとつ、具体例を見てみましょう。その前に、東洋医学のちいさな前提を。

東洋医学では、体をつくり動かすものを、大きく3つで考えます。気(き)・血(けつ)・水(すい)

ざっくり言うと、気は”エネルギー”、血は”血液や栄養”、水は”体をうるおす水分”。

この3つが、十分にあって、とどこおりなく巡っていれば、元気でいられる——そう考えます。

気・血・水の3つが体をめぐるイメージ

さて、このうち「血」が足りなくなった状態を、血虚(けっきょ)と呼びます。

血虚の人には、こんなサインが出やすくなります。

  • 顔色が青白い、くちびるの色が薄い
  • 立ちくらみ、ふらつき
  • 舌が白っぽい
  • 脈が、細くて触れにくい

四診でこうしたサインが集まると、「これは血虚の証だな」と見立てます。

そして血虚なら、手あての方針は——シンプルです。足りない血を補う

漢方なら血を補うお薬、鍼灸なら血を補う働きのあるツボを使っていく、という具合です。

証が決まれば、やることが見えてくる。だから、たとえ病名がはっきりしなくても、手あての糸口が立つのです。

同じ病名でも変わる/違う病名でも同じになる

ここまで来ると、冒頭のふしぎが解けてきます。

同じ「頭痛」でも、Aさんは血虚、Bさんは別の証かもしれない。

証がちがえば、手あてもちがう。これを同病異治(どうびょういち)——「同じ病でも、治し方が異なる」といいます。

逆に、まったく別の不調で来られたふたりが、見立ててみると同じ証、ということもあります。

その場合は、病名がちがっても、似た手あてになる。これを異病同治(いびょうどうち)——「異なる病でも、同じ治し方」といいます。

「病名」だけを見ていると、この柔軟さは生まれません。

“今のその人”を見るからこそ、ひとりひとりに合わせた手あてができる。ここが東洋医学の、大きな魅力だと感じています。

世界も認めはじめた「証」

最後に、ひとつ豆知識を。

世界には、「ICD(国際疾病分類)」という、病気の“共通の目録”があります。

WHO(世界保健機関)が定めていて、世界中の医療現場で実際に使われている、とても実用的な仕組みです。

たとえば病院のカルテや診断書、健康保険の請求、手術や検査の統計、亡くなった原因(死因)の集計まで、世界中でこの目録がもとになっています。

ここでは、あらゆる病気や症状に、ひとつずつ番号(コード)が割りふられています。

たとえば「糖尿病」なら、糖尿病のコード番号。どの国の人でも、その番号を見れば「ああ、あの状態だ」と共通でわかる仕組みです。

そして2019年——このICDに、東洋医学の「証」が300項目以上、加えられました。

つまり、「血虚(けっきょ)」にも、専用のコード番号がついたのです。

これまで「血虚」という漢字は、漢字圏の外の人には、なかなか伝わりにくいものでした。

でも、コード番号があれば——漢字が読めない国の人でも、その番号から「血がすこし足りていない、あの状態だ」と、共通で理解できます。

古い東洋の知恵が、世界の共通言語の中に、きちんと居場所をもらった。

そう思うと、なんだか、うれしくなります。

難しく考えなくて、大丈夫

「証(しょう)」のお話、なんとなくつかめたでしょうか。

見て、聞いて、尋ねて、触れて、今のあなたを見立てる。

だから、同じ病名でも手あてが変わるし、違う病名でも同じになることがある。

「自分に合った手あて」を探してもらえる——そう思うと、少し心強く感じませんか。

次回(第4回)は、いよいよシリーズ最終回。

第1回にも登場した、あの白黒のマーク——「陰陽(いんよう)」のお話です。

昼と夜、夏と冬…世界がバランスをとりながら巡っていく考え方を、やさしくほどきます。どうぞ、お楽しみに。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

カテゴリー: 東洋医学をかもっとカジュアルに.
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