東洋医学をもっとカジュアルに(第1回)お相撲も、京都も、あのマークも——実は東洋医学
「鍼灸(しんきゅう)って、なんだか難しそう…ちょっと怪しい?」
——そんなふうに、少し身構えてしまう方も、きっと多いですよね。
こんにちは。はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院、院長の池内です。
千葉・我孫子(あびこ)の手賀沼(てがぬま)のほとりで、毎日はりとお灸をしています。
ふだんは、獣医師さん向けに東洋医学の講義もさせてもらっています。
そんな私が、いつも思うことがあります。
それは——東洋医学って、実はもう、あなたのすぐそばにあるんです、ということ。
お相撲。京都の街。だれもが一度は見たことのある、あの白黒のマーク。
ぜんぶ、東洋医学と同じ考え方でできています。
今回は「難しそう」の氷を、少しだけ溶かしてみたいと思います。どうぞ、肩の力を抜いて読んでくださいね。
- 東洋医学は、私たちの暮らしのあちこちに、すでに溶け込んでいます。
- お相撲の土俵の四隅の色、京都の街づくり、あの「陰陽マーク」——どれも東洋医学と同じ考え方でできています。
- ノーベル賞をとった西洋の天才物理学者も、東洋の考え方に行き着きました。
- 「難しそう・怪しそう」と身構えなくて大丈夫。まずは“身近さ”から、一緒にほどいていきましょう。

はり・きゅう専門院 ゐろは鍼漢院 院長 池内 公(いけうち いさお)。
臨床歴20年以上。病院勤務で内科・整形外科・耳鼻科などの現場を経験。
2012年からは獣医師向けに東洋医学の講義も担当しています。千葉県我孫子市、手賀沼のほとりで開院。
実は、身近にあふれている東洋医学
東洋医学というと、なにやら古めかしい漢字が並んで、呪文のように聞こえるかもしれません。
でも、そのおおもとにある考え方は、とてもシンプルです。
昔の中国の人たちは、暮らしていくために、来る日も来る日も自然を観察しました。
潮の満ち引き、月の満ち欠け、季節のめぐり……。
そうして「世の中には、こういう法則があるらしい」と気づいていったんですね。
その“世界の見方”が、東洋医学の土台になっています。
そして、この見方は、めぐりめぐって私たちの身のまわりにも残っています。ひとつずつ、のぞいてみましょう。
お相撲の土俵に、東洋医学の“色”がある
テレビでお相撲を見ると、土俵の上に屋根が吊るされていますよね。
その四隅から、色のちがう房(ふさ)が下がっているのをご存じでしょうか。青・赤・白・黒の4色です。
実はこれ、東洋医学の考え方とまったく同じ「五行(ごぎょう)」というものからきています。
昔の中国では、世の中のあらゆるものを 木・火・土・金・水(もく・か・ど・こん・すい) の5つのグループに分けて考えました。
そして、それぞれに色や方角が割りふられているんです。
- 東 → 青
- 南 → 赤
- 西 → 白
- 北 → 黒
- そして真ん中(中央)→ 黄色(土)
土俵の四隅の房は、まさにこの東西南北の色。
そして土俵そのものは、五行でいう「土」——つまり大地です。
私たちの国技のなかに、東洋の自然観がちゃんと息づいているんですね。

京都の街も、東洋医学の考えでできている
もうひとつ、有名な例が京都です。
千年以上むかし、都を京都にうつすときのこと。
その土地は「北・東・西が山に囲まれ、水辺がある」という、縁起のよい地形が選ばれたと言われています。
そして、北の山を玄武(げんぶ)、東の川を青龍(せいりゅう)というように、まわりの自然を4つの神様に見立てて、街づくりがされました。
この4つの神様「四神(しじん)」も、さきほどの東西南北の色と結びついています。
じつは私、若いころ京都に住んでいたことがあります。
ちょうど陰陽師(おんみょうじ)がブームになっていたころで、安倍晴明(あべのせいめい)をまつった神社をたずねたりしていました。
当時はぼんやり眺めていたのですが、今になって「ああ、あれも東洋医学と地つづきの世界だったのか」と、しみじみ思います。

ちなみに、この四神の名前——青龍・白虎(びゃっこ)・玄武——は、漢方薬の名前にもなっています。
花粉症のときに使われる「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」など、聞いたことのある方もいるかもしれませんね。
あの白黒のマーク——「陰陽(いんよう)」という考え方
さて、これはどうでしょう。
白と黒の勾玉(まがたま)がふたつ、くるりと組み合わさった、あのマーク。
アパレルブランドのロゴになっていたり、韓国の国旗の真ん中にも入っています。一度は目にしたことがあるはずです。
これは 太極図(たいきょくず)、いわゆる「陰陽(いんよう)マーク」です。
陰陽というのは、むずかしく考えなくて大丈夫。
ひとつのものを、ふたつの面に分けて見る、という考え方です。
昼と夜。夏と冬。上と下。
世の中は、この「対になるふたつ」がバランスをとりながら回っている——昔の人はそう見ていました。
おもしろいのは、白のなかに黒い点が、黒のなかに白い点が、ちょこんと入っていること。
「完全な白も、完全な黒もない」。
どんな人のなかにもいろんな面がある、というわけですね。なんだか、人づきあいのヒントのようでもあります。
西洋の天才物理学者も、たどり着いた
「そうは言っても、東洋の考えって、やっぱり非科学的なんじゃ……」。
そう思われた方に、ひとつだけ、とっておきの話を。
ニールス・ボーアという物理学者をご存じでしょうか。
デンマークの理論物理学者で、1922年にノーベル物理学賞を受賞した、現代物理学(量子論)を築いた一人です。
あのアインシュタインの好敵手(ライバル)として、火花を散らす議論をたたかわせたことでも知られています。
そのボーアが、ミクロの世界のふしぎに出会います。
「光は、粒でもあり波でもある」といった、正反対の性質が同時になりたつ現象です。
彼はそれを 「相補性(そうほせい)」 と名づけ、こう語りました。東洋の哲学と、量子論はよく似ている、と。
そして、デンマークで最高の勲章を授かったとき、彼が自分の紋章(もんしょう)のデザインに選んだのが——なんと、あの太極図だったのです。
そえられたモットーは、ラテン語で CONTRARIA SUNT COMPLEMENTA。
意味は、「対立するものは、互いに補い合う」。

まさに、陰陽の考え方そのものですよね。
西洋の科学を最前線で切り拓いた人が、めぐりめぐって東洋の“あのマーク”にたどり着いた。
そう思うと、なんだか少し、見る目が変わってきませんか。
難しく考えなくて、大丈夫
東洋医学は、お経のような呪文でも、あやしい占いでもありません。
昔の人が、自然をじっくり観察するなかで見つけた「世界の見方」です。
そしてそれは、お相撲にも、京都の街にも、あのマークにも、今も静かに息づいています。
「難しそう」「怪しそう」——その氷が、ほんの少しでも溶けたなら、うれしいです。
次回(第2回)は、東洋医学のいちばん大事な考え方のひとつをお話しします。
「体を、バラバラに分けて考えない」という見方です。
「怖い思いをすると腰が抜ける」「悩みごとが続くと胃にくる」——そんな、だれもが心当たりのある感覚を、東洋医学の目でのぞいてみましょう。
どうぞ、お楽しみに。
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